うになると、電話の注文はもちろんのこと、電車自動車で直ちに配達出来るのだから、本店の勢力範囲が郊外にまで拡張されて、支店というものの必要もなければ、出る余地もない。強いて出して見てもとうてい本店の信用に圧されてまず発展の見込みはあるまい。
 そればかりでなく、昔のように僅かの資本で店を持つことが難かしく、ことに最近では百貨店や公設市場の進出のために、多年売込んだ老舗でさえもついに閉店の憂目を見るという有様で、新たに店を持つのには余程の困難を覚悟せねばならない。
 こういう時代に、多数の店員を養っている店主として、店員達の将来についてどういう用意をしてやり、どんなふうに指導して行ったらよいものであろうか。ところが店主の中にはそういう時勢の変化を知らず、待遇の如きも何らあらためるところなく、旧態そのままで店員が相当の年齢に達してのれん[#「のれん」に傍点]分けを請求され、はじめて狼狽するというのが少なくはない。
 また店員側でもぼんやりと主人に頼っていて、いまだに古い習慣通り、十二、三年も奉公すれば、一つの店の主にして貰えるものと信じて辛抱しているようなのがある。特に当人よりもその父兄には
前へ 次へ
全330ページ中166ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング