のは私には出来ません」とのことであった。昔の商人にもこの見識家がありました。今の商人はあんまり客に対して権威がない、この主人の言に学ぶべきことが大いにあると思う。

    顧客の教育

 何もむずかしいことではない。自分の商売を通じて充分客を教育することが出来るものだ。
 我が国は英国等に比して洋服が非常に高い、たかい訳である。注文があるとまず寸法を取りにお客の所へ出かける。二三日すると仮り縫いというやつでまた出かける。出来上がるとお届けにまかり出る。届けたはよいが金がとれない。再び出かけて行く、今日は駄目だ、また出直してこいといった調子、しかもこの寸法取りに出かけて行くには小僧では間に合わない。腕のある人が行く必要がある。勢い高くならざるを得ないではないか。
 英国では洋服屋は決して客の所へ出かけて行かない。大家の旦那であろうと、大会社の重役の注文でも、客の方から出かけて行かなければならぬ(ただプリンスの御注文だけは洋服屋が参向することになっている。但しこの場合出張費と自動車代とを請求するのである)。これだから安いわけである、我が国において洋服を高くするものは、洋服屋の無自覚と、自
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