ろ芸術的に、世界のどこにも負けないものにしてみたいと思っている。
私は、ヨーロッパの商店を視察して来たけれども、ヨーロッパではそんなにひけ[#「ひけ」に傍点]はとらないと思って居る。アメリカの方が月給がいいし、待遇がいいので、アメリカも視察したいと思っているが、米国は月給はよほど余計にやっているようだから、その点大いに及ばないと思っている。
日本でもかなり理想的にやっている所が、大きな会社などにはありますが、小売店というものは案外、今までそういう点を注意していなかったらしい。小売店に働く青年でも、三井三菱に働く青年でも、青年には変りはないので私は小売店に働く店員は、三井、三菱に働いている青年と同じ待遇を受けても不思議はないと思う。
休みは、週末にしたいと考えている。休みをあまり多くすると、遊ぶことを覚える。従って、小遣いも余計いるということになるが、たしかにそういう誘惑もあると思う。
だから、まず休みの時間を最も有意義に使う習慣をつけないことにはいけないので、一躍週休にすることはさけて、学校も建てていろいろやっている。
例えば、習字の先生を招いて習字を習わせている。そして、各寄宿舎に大きな三尺角の机を渡す。すると、全部の者が習字するようになった。従って、技を競う関係上、外へも遊びに出ず、一生懸命になってやる。
また、算盤を教えると、だいぶ上手になった。私は、どちらかというと算盤は得意の方で、みんなが算盤をやるとき、自分も一つやってやろうというので、私の算盤がいつも標準になるくらいである。ところが、半年、先生に算盤を教えさせたら、今では少年の方が私よりも上手になってしまった。
この間も先生が来て、私は商業学校のほかに五ヶ所ばかり数学を教えているが、算盤はお店の子供が一番出来がいいと言うから、あなたはお世辞を言っては駄目だ、と私が言うと、お世辞ではない本当だと言う。
あるいはそうかも分らない。向うは学科がいくつもあり、算盤はどっちかというと軽蔑されている。私の方は学科はいくつもなく、算盤に興味をもってやるので、上手になるのは当り前である。向うは一週間に四五時間だが、私の方では一週間に僅か一時間で、しかも半年で、向うの二年ぐらいに追いついたというのだから面白いではないか。
店員は家族
今は家族的に団欒は出来ない。というのは、二百七十人ほども店員があるので、三十人以上だと顔が分らなくなるし、三十人ずつでも、八回から九回あつめねばならないからである。それも昼間は出来ないので、どうしてもうまく行かない。
それで、何とか工夫しなければならないというので、店の喫茶室をあけて三つに分け、ちょうど十五六人ずつ三回にした。宅では弁松の弁当を取って食わしたが、今日は中村屋のカレーライスをやろうというので食べさせた。訊くと、店員の半分ぐらいは食べてないという。店《うち》の者がうちの食べものを知らないでは困るからというので食べさせたら、非常に喜んだけれども、もう九十人になると、宅へ来た時のように、いろいろ名乗るわけにもゆかないので、一利一害がある。
自分の所は、前に述べたおかみさんの話ではないけれども、よほど気をつけないと、主人と下に働くものが上下になり勝ちである。主人はお父さんというようにならなければならぬ。私の方からは、雇人ではない家の子である。子供が二百幾人あるという気持でなければ、うまく行かない。その気持を徹底させるために、いろいろと研究している。
食べ物などは、私の家より店員の方がよくなっている。うち[#「うち」に傍点]の伜は洋行してから食べ物が贅沢な方だが、店に行けば必ず店員と一緒の物を食べる。我慢するのでなく、うち[#「うち」に傍点]の女中が拵えた物より店の物の方がおいしいのである。私は店では滅多に食べないが、それでも時々は食べる。
それから誕生祝いなどあって、昨日入店した者でも、誕生日なら今日は誰さんの誕生日というので、幾らか違った御馳走をする。
初め百人ぐらいのうちはよかったが、人数がふえると今度は毎日になる、毎日では珍しくないので、そこで、今日と明日と並んだら、今日ふたり分やる。そうすると、三日に一度ぐらいになる。
また一人の時と、二人あるいは三人、四人一緒の誕生日の時は御馳走をかえる。例えば、一人の時にエビフライなら、二人の時は、それより上等の刺身にし、三人の時は果物を一つつけるとかいうことにし、三日に一度ぐらいずつ、今日は誰さんと誰さんの誕生日ということにした。
そんなことは何でもないことであるが、みんなが家《うち》では誕生日なんかしてもらったことがないのに、ここへやって来てやってもらえると喜んでいます。誕生祝いは何でもないが、自分というものが認識され、尊重されるという気持、私はそれでゆ
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