現在ではだんごに青粉を入れている。従ってこれは「名物」だからと買って賞翫する気にはなれない。今日ではただ僅かに名物という名残りをとどめるにすぎないのも故あるかなである。
私の店でも「草だんご」を売るが、まだ春浅く東京近辺では草が萠え出ていない時分にどうするかというと、房州辺から一貫目二円ぐらいの草を買って拵えているのだ。何品によらずこれだけの注意は払わねばならない。西新井薬師の「草だんご」もこれだけの誠実があれば名物の地位を失うことはなかったのである。
奥州八戸に「胡麻せんべい」というのがある、昔は東京までその名が聞こえて賞味されたものであるが、最近これを買って見ると一向うまくない。種々研究の結果はこうだ、八戸は昔胡麻の名産地であって、粉も非常に良いものを用いていたが、近頃は粉も劣り、胡麻は安い支那産のものを用いている。
世は日進月歩であるのに、造るのは次第に劣って来る。人間も誠意と努力が欠けて来る。昔はその土地が自然に優れていてそれが名物となっていたものであるが、世が進めばこれに対抗する苦心があるはずだ、老舗などが倒れて、新しいものにお株を奪われるのもみなこの苦心を欠くからである。
すべて日本人の弱点として、アメリカやイギリスを真似て得意がると同様に、地方ではやたらに、「東京を真似る」ので地方の特色を失って行く。封建時代は地方地方の名産がまことに特色があり、如何にもその土地らしいにおいがして、ちょっと旅をしてもどんなに趣き深いことであったろう。それが現在では日本が一律に単調化し、平面化し、ますますその味わいを失って行く、文明、人物、みなこの名物の例に異らずである。
また日本の「イチゴ」は世界一である。日本の土地柄として水蒸気の多いことが原因するのである、また日本の果物もオレンジ(米国第一)を除いて他は世界で最も優れている。「イチゴ」がそんなに上等であるのに、日本出来のイチゴのジャムは相手にされない、アメリカ産の一斤入り瓶詰が二円、イギリス産BCが一缶八十銭であるのに、日本産は三十銭というみじめさである。それだけ値が違ってもいまだに舶来品が輸入される。世界一の原料を持つ日本が何故に悪い製品より出来ないかというに、問屋が製造家をあまりに攻めすぎるからではなかろうか。
私は昨年から、一粒選りのイチゴを最上のザラメを用いて、一缶につきおよそ三四銭余計にかけて三
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