り切るように製造致します。たまたま臨時の注文等に接すると、正午頃売り切る事もあります。かかる際は御客様に申し訳ないと思いますが、これくらいに内輪にしても烈しい夕立の日等は往々にして数十円の残り品の出来る事があります。しかしこれは一年中に二、三回に過ぎませんので、この機会に日頃お世話になる銀行や、郵便局、育児園等に贈呈して決して明朝に持越さないのであります。
 これが私の店の繁昌の最大原因と信じております。
 この際に喫茶部を経営される方に一言呈したいことは、やはりこれと同種の理由にて計画は平日を標準として、少しく内輪にすることであります。近くに野球場があるとか、祝祭日とかにて平日に倍する客のある事を目当てに手広く設計する事は絶対にしてはいけません。午餐時か夕食頃のごとく来客の混み合う時には少しく手狭を感じて一部の客を御断りするくらいが最も適当の設備というものであります。
 古来より大料理店等が近来の小さいレストランに押され勝ちな事はこの理由であります。大料理店は婚礼や大宴会には好都合でありますが、平常は大屋台を冠って多数の雇人を遊ばしておくのが多いので、毎日経済の平均のとれるレストランに対抗出来兼ねるのであります。
 総じて何事によらず八分目なるがよろしく、この心掛けさえあれば繁昌疑いありません。

    店員の教育方法

 私が餅菓子を始めた当時、某有力菓子店の主人から、職人の給料は薄給なこと、そして問屋から歩合やコンミッションを取る悪弊があること、店の商品や原料を持ち帰ることは公然の秘であることを聞かされ、私は断然この弊風を根絶しようと決心した。
 そこで私は月給を従来の二倍かにして、その生活安定を計る一方、店の規律をきわめて厳重にした。しかし長い間の習慣というものは恐しいもので、なかなか改まらなかった。ようやくこれは根絶し得た。
 そこで、店員待遇法はどうしているかというと、妻帯者には三割、子供一人増すごとに一割、両親あるものには二割を増している。またこれは給料ではないが、店員の食事にずいぶん注意している。食事というものは些細なことのように考えられやすいが、非常に大切なことだ、並以上のものを食べているという自覚は、大変その人格に影響を与えるものである。
 無論私は店員と心の接触をするように心がけている。例えば四季折々の年中行事を必ず行なって家庭的な暖か味を添
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