取引をやらせるのです。問屋のこの手にかかった番頭は二等品を納めておいて主人には一等品として支払わせて、その間の利益を着服するなど、だんだん深味に足を踏み込んで取返しのつかぬ始末となるのです。先方の番頭は充分世才に長じ、人情の弱点を心得ているから、決して初めからお金などを持っては来ないのです。例えば小手調べに活動の切符などを持って来て、お暇ならどうですという。こちらはたかが活動の切符だと気にもしないが、日付を見ると何日とある。ちょうど用事も片付いた、ただ捨てるのも惜しい気がしてうかと行って見る。次には芝居の切符を持って来る。これが無事通過すればもうしめたもの、今度は飲食店に誘う。この辺からフルスピードで魔窟に急転直下するのです。すでにここまで転落すれば給与される金ではとうてい足りないから、朋輩に金を借り、ついには主人の金品を胡魔化《ごまか》す、仕入部と工場に忌わしい連絡が結ばれる、とうとう陥る所までおちて馘首《かくしゅ》され、昨日の店員も今日からは他人となり縁が絶えてしまう。こうして将来ある青年をあたら中途で堕落させたことも幾度か、やはりここにも主人として重大な責任のあることを思い、深く
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