。
その結果は、淀橋署長|黒葛原《つづらはら》氏の辞職となった。私もそれ以上の追及は気の毒と考えたので出訴を取り下げ、三十二名の警官たちに対しては、彼らはただ署長の命令で行ったまでのことであるから、別に問題としなかったのである。
黒葛原《つづらはら》氏は去ったが、幸いにして私の真意は警察側に通じ、怨恨を残すどころか、これによって警察と中村屋は事件前よりかえって理解を進めた形となった。真剣に対立して見て初めて誠を感じ合ったというものであろう。
警察側がただ一人の盲人を連れ行くために、夜中三十二名の警官を動員したなどは全く常識の沙汰でないが、これはボース事件の記憶からこのたびも私がエロシェンコを匿しはせぬかとの疑念から出たものであったろう。しかしそれとこれとは全然問題の性質が異い、エロシェンコに対しては私は最初から国法に服従せしめる方針をとり、その態度は自ずから明白であったのである。ただ警察は疑心暗鬼にとらわれたのであって、思えば黒葛原氏も気の毒なことであった。
ボース事件も、この黒葛原氏が麻布署長の時代であったというが、同氏と中村屋とはよくよく因縁が深かったものだと思う。
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