ぬことはもとより、平常自己の人格の向上を念願すると同様に、店そのものの本質的向上を計り、人格を磨くが如く店格を磨き、店の個性を樹立することに精進努力せねばならない。店の品格を高めることの必要なのはいうまでもなく、はっきりした特色を持ち、常にその長所を発揮することが大切なのであって、それはちょうど人が人格の高潔とともに才能を練磨すべきであると全く同様である。
先頃も私は、日本全国から菓子の講習を受けに上京した人々に講話を望まれて話したことであったが、地方の菓子業者はたいてい東京の菓子を模倣することに全力を傾け、その地方特有の名物を軽視して顧みない風がある。むろん万人から見て東京は大いなる魅力であろうが、それはちょうど明治の初め西洋崇拝に駆られて、日本古来の美術工芸品を二束三文に外国に捨売りし、何でもかんでも舶来でなくては気が済まなかったのと同じことで、遠からず失うたものの価値が解り、必ず後悔する時が来るであろう。すなわち地方人はその地の特産を大切にし、保護するとともに一段の改善を加えて発達を図り、地方色を確保することが必要である。私は好んで各地を旅行するが、これはと思うような土地特有の名物に接することは至って少なく、たいがいは都会におけるありふれたものの模造であり、失望することが常である。先頃私の友人がギリシャに遊び、往昔文化の中心地であったアゼンの都において記念品を求めようとしたところ、眼につくものはたいてい日本製品か独逸品のみで、ギリシャ特有のものは何も見当らなかったということで、大いにその国土のために嘆かれたということである。
私はこれらの話をして地方人の不心得を指摘し、大いに注意を喚起したのであったが、これはひとり地方だけのことでなく、都下屈指の商店にしても模倣を事として目前の安易に慣れているものが多いのである。いわゆる百貨店等に押されて次第に影の薄くなって行くという店は、たいてい特色なきこれらの店である。
特色なき店はいかに大がかりな店構えをしても、そこに何の強味もない。独自の製品を持ち一個の店格を確立せる店は、小なりとも大いに発展し得る将来を持つというべきである。のみならずこうすることが真に商道に忠実なる者である。
日本人の能率は欧米人に劣らず
中村屋は本郷における創業の時代、女中も合わせてようやく四、五人の人に働いてもらっていたが、そ
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