どその名前を聞いて見れば、よく新聞にも出とる名じやテ。が先方は先づあらかた話の極まるまでは、名前は秘密にしといてくれといふ事だが、甲田美郎といふ人じやそうだ。もつともその年輩だから一度妻を貰つた事はあつたんだ、がそれは都合があつて離縁したんじやそうだ。マアそんな事はどうでもよいがその人が何じやといひてちよつと口の辺りを撫で、その何じやその是非そちを貰ひ受けたいと望んでゐるそうじやが、どうしてそちを知つてゐるのか知らん、ムムムさうか、去年学校へ参観に行つた事があつたのか、それでは知つとる筈じやテ、それなればなほ更都合がよい見合も何もいらないから、どうじや行く気があるか、よもや異存はあるまいなと、君子の父は早独りにて極めゐる様子なり。母もこれに詞を継ぎて、ネー君よもや嫌ではあるまいネー、お父さんも大変御意に召した様子だし、私も誠に願はしい縁だと思ふんだから。御返事がしにくければそれでよい、だまつてゐても事は分かるよネホホホとこれはまた呑込み過ぎたり。君子は最初より父の話のふしぶし一々に胸に当りて、もしや花子のいへる人と、同じ人にはあらざるやと危ぶみぬ。されど何故にや花子はその姓名は告げさり
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