第何号室と記したる室内に、今しも晩餐を終りたりと覚しき女生達三四人団結して、口々に語らふ中にも、桜井花子といふ器量よし、学問はちと二の町なれど、丸ぼちやの色白といふ当世好み、鼻はさして高からねど黒眼がちなる二重瞼愛らしく、紅さしたらむやうに美しく小さき口もと、歯並は少し悪けれど、糸きり歯の二重になりたるは、なかなかに趣きを添へて、これも愛嬌の一ツとはなりつ、濃き髪を惜しげもなくくるくると上げ巻にしたるを、あはれ島田に結はせたらましかはと思ふばかりなるが、甘へたる調子にて我よりは一ツ二ツ年上らしき竹村といふ女生に向ひ、ちよいと君子さん、あなた今日の参観人御存知なのと、意味ありげに答を促しぬ。君子と呼ばれたるは年十八九少し瘠ぎすな方にて、鼻隆く口もとしまり、才気面に顕れたれど、神経質の眼つきかくれなければや、美しき中にも凄味あり、人によりては愛嬌なしといはむかなれど、これもまた花子とともに校内に一二を争ふ美人なり。ハアなぜなの私は存じませんよ。だが例のらしい人でしやう、ほんとに嫌な事ね、かの人達は学校を何と心得てゐるのでしやう、ほんとに学校の神聖を汚すといふものですね。校長さんはなぜあん
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