まらむ顔をしてるじやないか』
『むむ』
『どこか悪いか』
『むむ』
『またうむか、よせよせうなるなあ。どうしたんだ一躰』
『どうもしない、歩行とる』
『ハハハハ君、君やあどうかしてるぜ。気を注けなきあいかんぞ』
『なぜ』
『なぜツて君、その顔色はどうだ。まるで草の中から這出したやうだぜ』
『うむツ』
と大村は少し驚き。
『ど、どうして君はそれを知つとる』
『知る筈じやあないか、今現に見とるんだから』
『うツ、見たつて、己れが出るところをかい』
『ハハハハ馬鹿、そんな屁理屈をいふもんじやない。形容詞だ』
『さうか、さうならさうといへばよいに』
やや安心の躰なりしが、なほも心の咎めてや。
『君、真に形容詞か』
『知れた事さ』
兵子帯は、無造作にいひ放ちしが、いかにも不気味といふ風にて。
『真実に君どうかしてゐるよ。どこまで行く、僕が送つてやらう』
しきりに注目しながら連れ立つを、大村は迷惑がり。
『小田君先へ行くよ、急ぐから』
『急ぐなら僕も急ぐさ。その方が勝手だ』
ともども早足に歩みながら、なほも友情禁じ難くや。
『君真実に顔色が悪いよ。いつそ僕の許《とこ》へ来ないか。僕は今国野
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