』
『さうさ、大きにさうさ、それでもよくまあ感心に、先さへ好まなけりやあといふ事を、知つてお出だね。それならば話すがね、なるほどお前のおいひの通り、巡査か、小学校の先生位のところなら、これでも御の字で貰つてくれやうがね。それではお前|此娘《これ》の一生も可愛さうだし、また一人ツぽちになつた、私は誰が養ひますえ、お前は今でもたくさん家に、財産《もの》があるとお思ひか知らないが、さうさう居喰も出来ないよ。今までだつて、私が遣繰《やりくり》一ツで維持《もた》せてゐたればこそ、居られたもの。そこへお前が帰つて来ては、三人口の明日の日を、どうして行かうといふところへ、お前は少しも気が注かぬかえ。それとも代言さんの許《とこ》に、二年ほども居た身躰、見ン事お前の腕一ツで、お父様のお帰りまで、私をどうにかしておくれかえ。そこさへ極まれば私だつて、お徳を妾に遣りたくあなし、直ぐにも思案を変えやうわね、さあその返事をしておくれ』
弱身につけ入る強面、憎しと思へど母といふ、名には叶はぬ痩腕の、油汗を握り詰め
『そ、それは無理です、私は未だ修業中の身躰です』
『それ御覧、それならお前も無理じやないか。修業中
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