にも家へ帰らねば、双方が胸の高潮は昂まりながら、幸いに甚だしき衝突もあらで、一二年は大村が家も、無事大平の観を呈しき。
 おあかはその間に万事己が意に任せて、したきほどの栄耀し尽くし、一郎が事は少しも搆はねど。一郎が妹とくといふは、女の子だけに己れに手なづけ、姿容《きりよう》のよきを幸ひに、玩具代はりの人形仕立、染れば染まる白糸を、己が好みの色に仕入れ、やがてはしかるべき紳士の奥方に参らせむ心の算段。何かにつけて議員さまの、奥様は、こんなものぞといはぬばかり、妙なとこまで旦那殿が、お名前の張持出して、外交に伴ふ内政の方針、これまた無鉄砲なる大仕掛に。驕るもの久しからぬ、四年の任期疾く過ぎて、次回再選の運動費は、出処進退|谷《きわ》まりし、脊に腹は代えられずと、一時の融通齷齪たる、破れかぶれの大功には、はや細瑾の省み難く。首も廻らぬ借財の、筋の悪きを聞付けて、得たりや応と攻め掛けし、反対党の爪牙《さうが》に罹り、そが煽動の出訴により、思はぬ外の監獄入り。世を落選の耕作が、万事休せし一期の淪滅、家の激動、一郎が学びの窓を破壊して。書に親しまむ少年の、春は柳の千縷蕭條、いとくり返し読み得しは
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