何』
『はいこないだ失くなしました』
『ふむむむ、いつか通りで買つて来たつて、見せたのかえ』
『へい、それにはした[#「はした」に傍点]を少々ばかし、入れておいたのでございますが、それがさつぱりこないだから、知れないんでございますもの』
『だつてお前、それはこのあいだ遺失《おと》したといつたじやないか』
『へい、遺失したんだとあきらめておりますのでございますが、さう承つて見ますると、少し変でございますよ。どうもあなた、遺失した覚えがございませんのですもの』
この三いつも遺失したものを、心に覚えてすると見へたり。奥様もやうやく釣り込まれたまひ。
『さうそりやあ何ともいへないよ。まあよく考へて御覧、まさかとは思ふんだけれど、いよいよとなれば調べなければならないから。何しろあれの親も、盗人じやあないが、お金を遣ひ込んで這入つたんだといふからね』
折しも次間《つぎ》に人の気配、奥様誰ぞと声かけたまへば、大村でござるといふ声の、噛付くやうに聞こへしにぞ、さてはと奥様お奥へ逃入りたまふに、三もとつかは[#「とつかは」に傍点]流しもとへ退《まか》らむとしての出合頭、ぬつと入来る一郎に突当られてア
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