、利子などを貪り、貧民の生血を吸つてゐる恠物もある。がこれらは咎め立するほどの、価値《ねうち》ある罪人ではない。それよりも、もつと大きな罪人には、尸位素餐《しいそさん》、爵禄を貪つてゐる上に、役得といふ名の下に、いろいろな不埓を、働いてゐる徒輩《ともがら》もある。がまだその上には上がある。君国を売る奸賊、道徳を売る奸賊、宗教を売る奸賊、これらはあらゆる奸賊の中でも、最も許し難き奸賊ではないか。しかるにこれらの大奸賊といふものに、なつてくれば、なかなか公然と張つてある法網に触れて、監獄といふ、小さな箱の中へ這入るやうな、頓間《とんま》な事はしない。俯仰天地に恥ぢずといつたやうな顔をして、否むしろ社会の好運児、勲爵士として好遇され、畏敬され、この美なる神州の山川を汚し、この広大なる地球を狭しと、横行濶歩してゐるではないか。されば天地間、いづれに行くとしても罪人の居ない処はない。いはばこの娑婆は、未決囚をもつて充満されてゐる、一個の大いなる監獄といつてよいのである。ただその中で思慮の浅い、智恵の足りない、行為の拙なものが、人為の監獄に投ぜらるるまでなのである。しからば監獄を限りて、罪人の巣窟
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