片付けしを喜びぬ。庄太郎は以後の懲らしめ、たとへその事の実否はともあれ、お糸が泣いて詫ぶる顔見では済まされじと、三行半《みくだりはん》の案文さへ、腹の裏に繰返しつ、すわとばかり飛下りしに、お糸の家の事の体容易ならず、医師の車と覚しきは二台まで門辺に据へられつ、家内は鳴りを鎮めてしんみり[#「しんみり」に傍点]としたる体に先づ張詰めし力も抜けて、我知らず足音も穏やかに、案内を乞ひて奥の間へ通りしに、次の間には主人と医師との立ち噺、声は小さけれど耳引立てる庄太郎には聞こえて、
[#ここから1字下げ]
 どうもよほどむつかしさうに見えまするな、滅多な事はござりますまいか。
[#ここで字下げ終わり]
 案じ顔に問ふは主人なり、八字髭美しき医師はちよつと首をひねりて、
[#ここから1字下げ]
 さうーどうもまだ何ともいへませぬネ。先づ今日明日はよほど御大事になさい。
[#ここで字下げ終わり]
 かくとききては庄太郎も、お糸にここへ出よとはいはれず。急に我も気遣はしさに、見舞に来りし体にもてなして、医師を見送り果てたる重兵衛に向ひ、慇懃に会釈しつつ、
[#ここから1字下げ]
 どうも御心配な事でご
前へ 次へ
全45ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング