たまはで、快うもてなし愛子《あいし》の顔など見せたまふに。我もここぞとさりげなくもてなして、さてもおか愛らしいお坊ちやまの、お眼もとは旦那様そのままにて、一体のお顔だちは奥様似。ほんにこれ程《まで》お羨しい赤様の和子様にては、生ひ立ちたまふお行末が御案じ申されまするなど。あるほどの世辞いひたりしに、子を誉められて嬉しからぬはなき世の親心。これにその奥様も我を隔なきものに思ひたまひてや、また折あらば 遊びに来よといはれしをしほ[#「しほ」に傍点]に。日ならず再び訪《おとな》ひ行しに、方様もさすが我が出入りまではとめ置きたまはざりしと見へて。いかがやと気遣ひし心の外に、奥様またも快く呼び入れたまふに、我は先ず心落居て。それよりは、いかにもしてその人に、馴れ親しまむの心より、万事につけてその奥様の御意迎へしに。その後は金満家のお嬢様とて、何のお心もつきたまはず、よきはなし相手を得たりとや。こなたより訪はぬ時は、かなたより迎ひのもの、遣はさるるまでの上首尾に。我は我が事はや半ばなりぬと喜ぶ隙にも、方様はさすがお心咎めてや。人なき折を見ては我が傍へさし寄らせたまひ、これにはいろいろ訳ある事なるを
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