どこやらすまぬ御様子にも見ゆるに。方様の日頃の志望《こころざし》を知りながらと、さげすみたまはむが恥しさに。それは何より耳よりなおはなし、なぜ応とはおつしやりませぬ、私はあなたのお為になる事なら、どんな思ひを致してもと、うつかりいひしを得たりとや。方様は急に真顔になりたまひて、さてはそなたは、あくまで我を信じくるるよ。
天晴れでかしたり賢女なり貞女なり、それでこそ我が最愛の妻、さては我も心安し、ここ一番雄心ふり起こして、この策《はかりごと》を実行しみばや。かの手鍋下げてもといふ世の諺はあれど、真の愛はその人の名を成し、その身を立たしむるものてふことを。そなたの今の詞あらでは悟らざりし我の心の鈍《おぞ》ましさよ。かかる賢女を妻にしながら、我のこのまま朽ち果つるぞならば、男冥利に尽きもやせむ。思へば我も世の中の、男の数には漏れぬものを、いでいで天晴れ出精して、あはれ世の学者の数にも入りてみむ。さあらむ時はかねてより、家の風をも吹起てたしとの、そちの望みも遂げさすべきにと。無暗にそやし[#「そやし」に傍点]立てたまふは、心ありての業ぞとも知らねば我はしかすがに。いひ放ちてし言のはの、矢質と
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