辛ふじて衣食の料《しろ》を支へたまふほどの、貧しき御身になり下りゐたまへしなりとか。さあれその事の本末はいかなりけむ、我年|長《た》けて後しばしば母君に、伺ひまつりし事ありしも、母君は血で血を洗はむも心うしとて、委《くわ》しくは告げたまはず。されど我が稚き耳にも、村の人々の一方ならず父君をいとしがりて、お人の善過ぎるが何より難、仏心も事によると、歯痒さうに語らひしを、しばしば聞きつる事あれば、これを母君のほのめかしたまへるお詞のはしばしに思ひ合はするに、我が父君の兄君を超へて、家を嗣ぎたまひしは、さるべきよしありての事にて、伯父君の兄といふ名に、そを横領したまひしは、確かに僻事なりしならむ。さるを天は善にのみ与《くみ》したまはぬにや、我が父君は再び世になり出でたまはむ折もあらせたまはで、我五ツといふ年の暮、その頃はまだ御年若かりし母君と、いはけなき我にさこそはお心残りけめを、お心の外にもかの世の人とならせたまひしとぞ。この時にこそ我が生涯の運命は、早くも不幸てふ方に定まりしにやあらむ。されど我が母君は、御心男々しき御方にて在らせたまひしかば、我を直ちに不運の手には委ねたまはで、村の人々
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