葛のうら葉
清水紫琴
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)肉を食《は》みても
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)我年|長《た》けて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うか[#「うか」に傍点]とのみ
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その上
憎きもかの人、恋しきもかの人なりけり。我はなど憎きと恋しきと、氷炭相容れぬ二ツの情を、一人の人の上にやは注ぐなる。憎しといへばその人の、肉を食《は》みても、なほあきたらぬほどなるを、恋しといへばその人の、今にもあれ我が前にその罪を悔ひ、その過ちを謝しなむには、いづれに脆き露の身を、同じくはその人の手に消えたしとは、何といふ心の迷ひぞや。さあれ我はこの迷ひ一ツに、今日までをしからぬ命ながらえて、空蝉のもぬけの殻に異ならぬ身をも、せめては涙をやどす器としてだも保ち居たりしなれ。もしこの迷ひなかりせば、我は疾くにかの人を殺さずんば、我自ら死しゐたりしならむ。さるを死なず殺さず今日まで自他の身を完《まつた》ふすること得たりしは、実《げ》にもこの迷ひ一ツの為にぞある。されど今は妄執の雲霧も晴れ、恋慕の覊
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