にござりまする。一時も早うと存じましても、十五時間、やうやうただ今着きました。さぞかしお待ちあそばしましてと。破れ畳に、煎餅蒲団、壁に向かひて臥したる老爺《ぢぢ》の、背後《うしろ》にしよんぼり、夢心地。坐りし膝も落着かぬ、外面の人立ち、迷惑を、夕陽に寄せて、そつと締め。ま何からお話し申さうやら、存ぜぬ隙に、東京を、お引払ひのその後は、夜の間も忘れぬ御懐かしさも、御教訓の重さにはと、思ひ替えて、朝夕を、一人で泣いておりましたに、思ひも寄らぬ昨日の御たより。やれ嬉しやも、心配の先立ちまする、御重病。はやはや来いのお報知《しらせ》は、どなたのお筆かは知らぬど、どうでお許しあつての事。お目に掛かれる嬉しさが、もし御病気の心配なしに、来らるるものなら、どれ程にも嬉しからうと存じましたは、栄耀の沙汰。早速夫の許しを受け、御介抱に、参りました上からはもうもう御安心あそばして下さりませ。これまではお一人の、御病気ではなほの事、御不自由でもござんしたらうが。かうして私、参りました上からは、ここが何なら、病院でも、お心任せの御養生、どの様に致してなり、きつと早々御全快はさせまする。思ふたよりは、御気分もお
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