一升、千万金の凉しさに、東の汗を洗はむと、西の都に来る人の、急がぬ旅も、急行の列車は乗せて運ぶ世の、一味平等、改札の口には上下貴賤なく、赤白青のいろいろが、先を争ふその中に。一人後れし丸髷の、際立つ風姿《なりふり》眼を注けて、これぞ好き客有難しと、群がる車夫が口々に、奥さんどうどす、お乗りやす、御勝手まで行きまひよかと。先づ京音の悠長を、つと避けて。茶屋が床几に腰掛くれば、女主の案内、特別に、奥座敷へと待遇すも煩はしく。なに急ぐんだから、ここで好いのよ、それよりか、これで手荷物を受取つて、人力車《くるま》を直ぐにといつて下さい。へいあのお人力車、どこまでと申しませう。はあたしか、柳原庄、銭坐村といふんだよ。へいあの柳原、それに違ひはござりませぬかと、恠訝な顔に念押せる、これも京の名物かと、走らぬ人力車促がして、ここ銭坐村といふを見れば。右も左も小さき家の、屋根には下駄の花緒を乾し、泥濘《ぬか》りたる、道を跣足《はだし》の子供らは、揃ひも揃ひし、瘡痂《かさぶた》頭、見るからに汚なげなるが、人珍らしく集ひ来て、人力車の前後に、囃し立つるはさてもあれ、この二三町を過ぎ行くほどは、一種の臭気身
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