移民学園
清水紫琴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)炊《かし》ぐ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)朝夕|爨《さん》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+勾」、第3水準1−84−72]はる事、
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   上

 身は錦繍に包まれて、玉殿の奥深くといふ際にこそあらね。名宣らばさてはと、おほかたの人もうなづく、良人に侍り。朝夕|爨《さん》が炊《かし》ぐ米、よしや一年を流し元に捨てたればとて、それ眼立つべき内証にもあらず。人は呼ばぬに来りて諂《へつ》らひ、我は好まぬ夫人交際《おくさまつきあい》、それにも上坐を譲られて、今尾の奥様とぞ、囃し立てらるる。これがそも人生の不幸かや。
 春の花にも、秋の月にも、良人は我を棄てたまはず。上野に隅田に二人の影、相伴はむことこそは、世事に繁き御身の上の、御心にのみも任せたまはね。庭の桜の一片をも、我とならでは愛《め》でたまはず。窓の月のさやけきにも、我在らずは背きたまふ。涙は我得てこ
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