て下さりますな。それではいよいよ奥様を、御離縁のその日から、奥様にして下さりますか。その御覚悟が聞きましたい。その場になつて、身分が違ふた。乳母風情の子のそなたとは、祝言出来ぬと仰しやつても、聞く事ではござりませぬ。この間からのお詞を、私は覚えてをりまする。よもや当座の慰みにと、仰しやつたのではござんすまい。もしもならぬと仰しやるなら、世間へぱつとさせまして。外様からの奥様なら、たとへ華族の姫様でも、きつとお邪魔をいたしまする。さうしたならば、あなた様の、お顔がたいてい汚れませう。それお覚悟ならいつなりと、奥様を離縁あそばしませ。直ぐにお跡へ直りまする』と。いつに似合はぬ口振りは、どうでも離縁さすまいの、心尽くしか、不憫やと、思ひながらも、いひ難き、事情の胸に蟠《わだかま》れば。知つても知らぬ高笑ひ『ハハハたいそうむつかしい事をいふではないか。よしよしそれも聞いておく。それでは離縁のその日にも、五十荷百荷の荷を拵らえて、そちを迎える事にしよう。それなら異存のない事か』と。真面目に受けぬもどかしさ。これではやはり正面からの、御意見が好からふと、開き直つて手を支え『それでは、どうでも奥様を
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