ぞ大事と、笑ひで受け、振離す手も軽やかに『ほんにお前も人の悪い。私の馬鹿をよい慰み。さんざん人を上げ下げした、挙句の果ての、悪ふざけ。この上私を、かついでおいて、笑ふつもりと見えました。もしこれからはお前のいふ事、私や真面目に聞かぬぞえ』『真面目でも、戯談でも、己ればかりは、真剣』と、取る手を、つつと引込めて『それ見た事か、私が勝つた。もう瞞されはせぬほどに、止しにして下さんせ。人が見たら笑はふに』と。わざと空々しく外す、重ね重ねの拍子抜けに。吉蔵いよいよ急き込みて『これお園さん、どうしたものだ。ここまで人を乗込ませて、今更笑ふて済まさうとは、太いにも程がある。その了簡なら、この己れも、逆に出る分の事と、さあ野暮はいはないから、まあ温和《おとな》しくしてるが好い。随分共にこの后は、力になつてやらふぜ』と。あはや手込に、なしかねまじき血相に。お園も今は絶体絶命。怒らば怒れと突離し、あれと一声逃げ惑ふを。玄関口まで追詰めて、遣らじと、前に立塞がる。隙を見付けて、突退くる、女の念力、吉蔵は、たぢたぢたぢと、式台に、尻餅搗いて、づでんどう。これはと驚くお園を眼掛けて、己れ男を仆したなと、飛びか
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