じましたから、とうとう心を定めまして、不本意ながらも、終に双方で別るる事となりました。それ故私はひたすら世の中の為に働こふと決心しましたが、私は記念の為にこの指環の玉を抜き去りまして、かの勾践《こうせん》の顰《ひそみ》に倣《なら》ふことにはならねど、朝夕これを眺めまして、私がこの玉を抜き去りたる、責めの軽からざることを思ひまして、良しや薪《たきぎ》に伏し肝は甞《な》めずとも、是非ともこの指環の為に働いて、可憐なる多くの少女《おとめ》達の行末を守り、玉のやうな乙女子たちに、私の様な轍を踏まない様、致したいとの望みを起こしたのでござります。
とはいへ今ではおひおひ結婚法も改まり世間に随分立派な御夫婦もござりますから、それらの方のありさまを見ますと、なぜ私は、ああいふ様に夫に愛せられ、また自らも夫を愛することが出来なかつたのかと、この指環に対しまして、幾多の感慨を催す事でござります。
ただ幸いに私の父は今なほ壮健《たつしや》で居りまして、大いに私の多年の辛苦を憐れんでくれまして、老躯がよしなき干渉より、あつたら若木の枝を折らせし事よとて、絶へず書を寄せて私を慰めてくれまして、今はかへつて
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