ところで、もう調べ尽くしたあとであるので、ただ僕の寝台の下や、窓ぎわの長椅子の下を覗いてみるぐらいの仕事はすぐに済んでしまった。
「これでは妖怪変化ならば知らず、とても人間わざでは忍び込むことも、窓をあけることも出来るものではありませんよ」と、僕は言った。
「そうでしょう」と、船長はおちつき払ってうなずいた。「これでもしも変わったことがあったらば、それこそ幻影か、さもなければ何か超自然的な怪物の仕業《しわざ》ですよ」
僕は下の寝台のはしに腰をかけた。
「最初事件が起こったのは……」と、船長は扉に倚《よ》りながら、脚を組んで話し出した。「さよう、五月でした。この上床《アッパー・バース》に寝ていた船客は精神病者でした。……いや、それほどでないにしても、とにかく少し変だったという折紙《おりかみ》つきの人間で、友人間には知らせずに、こっそりと乗船したのでした。その男は夜なかにこの部屋を飛び出すと、見張りの船員がおさえようと思う間に海へ落ち込んでしまったのです。われわれは船を停めて救助艇《ボート》をおろしましたが、その晩はまるで風雨《あらし》の起こる前のように静かな晩でしたのに、どうしてもその
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