けの事実でも、船長が僕の船室には普通の理論では解釈のできない、といって単にありきたりの迷信と一笑に付してしまうことのできない、容易ならぬ変化《へんげ》が憑《つ》いているに違いないと思っている証拠になった。そうして彼は、ある程度までは自分の名声とともに致命傷を負わされなければならないのを恐れる利己心と、船長として船客が海へ落ち込むのを放任しておくわけにはゆかないという義務的観念とから、僕の探究に参加したのであった。
その晩の十時ごろに、僕が最後のシガーをくゆらしているところへ船長が来て、甲板の暑い暗闇のなかで他の船客がぶらついている場所から僕を引っ張り出した。
「ブリスバーンさん。これは容易ならぬ問題だけに、われわれは失望しても、苦しい思いをしてもいいだけの覚悟をしておかなければなりませんぞ。あなたもご承知の通り、私はこの事件を笑殺《しょうさつ》してしまうことは出来ないのです。そこで万一の場合のための書類に、あなたの署名《サイン》を願いたいのです。それから、もし今晩何事も起こらなかったらば明晩、明晩も駄目であったらば明後日の晩というふうに、毎晩つづけて実行してみましょう。あなたは支度は
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