にもつかない話をして僕を怖がらせておいて、自分の怠慢をごまかそうとしたのだと、僕は思っていた。ところがその結果は、彼に一ポンドの金貨をせしめられた上に、きわめて不愉快な一夜を送ることになったのである。
 僕は寝床へはいって、自分の毛布でからだを包んでから、ものの五分も経たないうちにロバートが来て、入り口のそばの丸い鏡板のうしろに絶え間なく輝いていたランプを消していった。僕は眠りに入ろうとして、闇のなかに静かに横たわっていたが、とても眠られそうもないことに気がついた。しかし彼を呶鳴りつけたので、ある程度まで気が清《せい》せいしたせいか、一緒の部屋にいたあの溺死者のことを考えたときに感じたような不愉快な気分はすっかり忘れてしまった。それにもかかわらず、僕はもう眠気が去ったので、しばらくは床のなかで眼をあけながら、時どきに窓の方をながめていた。その窓は僕の寝ている所から見あげると、あたかも闇のなかに吊るしてある弱いひかりのスープ皿のように見えた。
 それから一時間ばかりは、そこに横たわっていたように思うが、折角《せっかく》うとうとと眠りかけたところへ、冷たい風がさっと吹き込むと同時に、僕の顔
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