をしているのに気づいた。朝飯が済んでから、僕は書物を取りに自分の部屋へゆくと、上の寝台のカーテンはまだすっかりしまっていて、なんの音もきこえない。同室の男はまだ寝ているらしかった。
僕は部屋を出たときに、僕をさがしている給仕に出逢った。彼は船長が僕に逢いたいということをささやくと、まるである事件から遁《のが》れたがっているかのように、そそくさ[#「そそくさ」に傍点]と廊下を駈けていってしまった。僕は船長室へゆくと、船長は待ち受けていた。
「やあ、どうもご足労をおかけ申して済みませんでした。あなたにちとお願いいたしたいことがございますもので……」と、船長は口を切った。
僕は自分に出来ることならば、なんなりとも遠慮なくおっしゃってくださいと答えた。
「実は、あなたの同室の船客が行くえ不明になってしまいました。そのかたはゆうべ宵のうちに船室にはいられたことまでは分かっているのですが、あなたはそのかたの態度について、何か不審な点をお気づきになりませんでしたか」
たった三十分前に、船医が言った恐ろしい事件が実際問題となって僕の耳にはいった時、僕は思わずよろけそうになった。
「あなたがおっし
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