ていた。すべての乗客は船に乗り込んだ第一日がいかに楽しいものであるかを知っているので、甲板《デッキ》を徐《しず》かに歩いたり、お互いにじろじろ見かわしたり、または同船していることを知らずにいた知人に偶然出逢ったりしていた。
 最初の二回ほど食堂へ出てみないうちは、この船の食事が良いか悪いか、あるいは普通か、見当がつかない。船が|炎の嶋《ファイアー・アイランド》を出ないうちは、天候もまだわからない。最初は食卓もいっぱいであったが、そのうちに人が減ってきた。蒼い顔をした人たちが自分の席から飛び立って、あわただしく入り口の方へ出て行ってしまうので、船に馴れた連中はすっかりいい心持ちになって、うんと腹帯をゆるめて献立表を初めからしまいまで平らげるのである。
 大西洋を一度や二度航海するのとは違って、われわれのように度《たび》かさなると、航海などは別に珍らしくないことになる。鯨や氷山は常に興味の対象物であるが、しょせん鯨は鯨であり、たまに目と鼻のさきへ、氷山を見るというまでのことである。ただ大洋の汽船で航海しているあいだに一番楽しい瞬間といえば、まず甲板を運動した挙げ句に最後のひと廻りをしている
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