Aこの犯人がまえに逮捕された結社の一派で、余罪を追及してゆくうちになかまのひとりが犯行を自白したというのだ。しかし、かれらの陳述がいっぷうかわっているのだ。つまり殺人はほんらいの目的ではなく写真の効果をできるだけほんとうらしくするために、男のほうにある程度まで本気で力をいれてバンドをしめさせたところ、男は手かげんのわからぬふうてんだから、つい度をあやまってしめつけているうちに、まえまえから悪病でむしばまれよわりきっていた女の心臓がじっさいにはれつしてしまったという次第だから、わるふざけはするもんじゃない。さすがのかれらも可愛いい日本娘がほんとに死んでしまったと気づいた時、屍体をとりかこんでおいおいないたという。屍体の始末にはこまったが、さいわい家の裏の、それでなくとも不潔なたえずなまぐさい腐敗臭をはなっている下水のふたをあけて、そのなかにほうりこんでおいたのがうまくいって、本職のほうで足がつくまで、つまりおれがよばれた日までは殺人のあったことも、屍体すらも発見されなかったというからうかつなだんどりじゃないか。そんなことをしてまでも悪事には不感な変質者であるやつらは、その日その日の酒にこ
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