い合った。彼の最も愛好する安酒が彼の五官に浸透するに伴《つ》れ、暗鬱な無口が次第に滔々《とうとう》たる饒舌《じょうぜつ》に変わり、どこかこう、映画俳優の So−jin に似た瑰※[#「王+奇」、第3水準1−88−6]《グロ》な、不敵の、反逆の、そして太々しい好色の瞳をぎょろつかせながら云った。
「――そんなにききたいならはなしてもいい。題して『放浪作家の冒険』てんだ。名前は勇ましいがなかみはナンセンスだ。さあ、お御酒がまわったから一気にしゃべるぞ!」
と云うわけで、以下はとりもなおさずその再録である。
但し、文中の地名は、或る必要から曖昧にした。
そう、あの晩はばかにむしゃくしゃした晩だった。もっとも、おれのようになんのあてもなく自堕落な生活をおくっているものに、むしゃくしゃしない日なんかありようがないが、あの晩はとくべつ、淋しく腹立たしい、いやな晩だった。でなければもはや、どんな空想の余地すらも、残っていないあんなところへ、だれがゆくものか。そのころおれは、Q街の陶物屋のあたまのつかえそうな屋根裏に寝起をしていたが、窓からそとをのぞいてみると、VホテルやN寺院やE門やの壮麗な
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