いやがり、半ごろしにするくらいだから、おそるべき秘密をしられたやつらは、うむをいわせずおれの首にも魔手をのばしてくるに相違ない。よオし、くるならこいという身がまえで、しかし多分にびくつきながら、眼のまえのドアのひらかれるのを今か今かとまった。

 だが、この家でこれ以上のさわぎをおこすことはやつらにとって不利だとでも思ったのか、しいんとしずまりかえって身動きのけはいすらきこえない。やつらも息をこらしているのだ。もはや天国にたびたったのか女のうめきもきえていた。にげればにげられるぞとかんづいたので、蟻ほどの音もたてぬよう全身をよつんばいに凝固させたまま、一進ごとに念をいれて廊下をはえずり、右手の部屋のドアをあけた。そこがおれの部屋だったのだ。気をつけてみると前後に階段があるので、右左が逆になっていたというわけなのだ。大急ぎでみじたくをととのえ、最初の階段をおりて出口へで、ネクタイもむすばずに戸外へとびでた。夜半はいまその高潮にたっしたのであろう、相変らず青水晶のような透明な月が魔窟のてっぺんにのぼって、きた時くらかった路地々々やはげおちた屋根々々をひるまのようにさえざえとてらしている。あ
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