覚はドビュッスイのように鋭敏だ。戸外が死のようにしずまりかえって、家がひろすぎたりして、なにかこうおっかない事件がおこりそうな、場所が場所だけにひどくぶきみな思いをした。
おれの体があまり健康でないということは説明するまでもないだろう。ひるよる逆のまるで梟《ふくろう》のような日々をおくっている体には、ながねんの夜露が骨のずいまでしみこんでいて、五年や十年の摂生でははらえそうもない。なまじいはらおうとも思わぬ。なんのための摂生だろう。なんのための養生だろう。摂生といい養生といい、どこにもたよるべき家郷をもたぬ永遠のヴァガボンド、よせうつ寂寥《せきりょう》と孤独と絶望の波をたえず頭からひっかぶっているおれにとって、それはまるで泡みたいなものだ。おなじ泡なら泡盛のほうがいい。ヴェルレエヌじゃないが、「げに我れはうらぶれて、ここかしこさだめなく、飛び散らう落葉かな」というわけで、自慢じゃないが婦人病以外の病気はたいていわずらった。なかでも業病は腹だ。日本にいる時からとんがらしをぶっかけた牛シャリやワン・コップで腸の壁面をすっかりただらせてしまったのだろう、きたないはなしだが、下痢でない日は
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