ゥら素行が不良で、おれが日本のポオル・ド・コックだと疑われたわけだ。刑事が蔵書をひっくりかえしたり、本格的なものをかけとからかったのも、あとで考えればうなずける。事実この Pornographie は、“〔Bibliothe'que des Curieux (collection illustre'e) Volume 13.〕”という標題のもとに、あの夜の演技[#「演技」に傍点]が挿入されて、いちぶの人士間に流布し、おれもふとした機会からながれながれた品物をげんにこの眼でみたことはみたので、この事実にうそはないらしいが、しかし、こんなたかのしれた犯罪の口ふさぎのためにおれを河をこえてまでつけてきて、ドスをぬいてきりかかってきたというのはいささか大仰ではないかと、なにかまだ腑におちないおり[#「おり」に傍点]のようなおもくるしい懸念をいだいているうちに、翌々日の新聞が、こんどはまえよりもいくらか大きな活字でこの事件のもうひとつのかくされた面をばくろしたというのは、X街の娼家と娼家とのあいだにながれている幅わずか二三尺のどぶのなかに、ひとりの日本女のふはいした屍体が発見されたというニュウスで、この犯人がまえに逮捕された結社の一派で、余罪を追及してゆくうちになかまのひとりが犯行を自白したというのだ。しかし、かれらの陳述がいっぷうかわっているのだ。つまり殺人はほんらいの目的ではなく写真の効果をできるだけほんとうらしくするために、男のほうにある程度まで本気で力をいれてバンドをしめさせたところ、男は手かげんのわからぬふうてんだから、つい度をあやまってしめつけているうちに、まえまえから悪病でむしばまれよわりきっていた女の心臓がじっさいにはれつしてしまったという次第だから、わるふざけはするもんじゃない。さすがのかれらも可愛いい日本娘がほんとに死んでしまったと気づいた時、屍体をとりかこんでおいおいないたという。屍体の始末にはこまったが、さいわい家の裏の、それでなくとも不潔なたえずなまぐさい腐敗臭をはなっている下水のふたをあけて、そのなかにほうりこんでおいたのがうまくいって、本職のほうで足がつくまで、つまりおれがよばれた日までは殺人のあったことも、屍体すらも発見されなかったというからうかつなだんどりじゃないか。そんなことをしてまでも悪事には不感な変質者であるやつらは、その日その日の酒にこ
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