て居られますね。小説家である私が別個の新聞記事を土台として、以上の如き実話風な物語を創り出したのであろうと? 私は真剣であります。其の為私の神経組織は病的な程、feeble《フィブル》 に成って居ります。斯う云う私を嘲笑なさる事は一種の不徳で有り侮辱で有り、私は閣下に決闘を申し込まねばなりません。
 偖、閣下よ、以上で私の陳情の目的が何であるか御判りになった事と存じます。よしんばそれが二人の妻の片方で有ろうとも、私の殺人罪には変わりは御座いません。即刻私を召喚して下さい、其の用意は出来て居ります。狂人の名を付せられる位ならば、寧ろ私は死刑を選びます。妻の同性愛の相手島慶子と云う踊児をも、もっと厳重に訊問したならば、或いは此の事件は解決を見るかも知れません。慶子は己が所業に恐怖を感じて居た由では有りませぬか? 如何な秘密を、彼女は持っているのでありましょう? 殴打後私が立ち去ってから妻の屍体が紛失する迄の、慶子の行為こそ問題ではありませんか? 或いは今だに房枝は生きて居て、何処かに隠匿されて居るのかも知れません。それには茶屋業主人成田作蔵と云う男が共謀して居るかも知れぬではありませんか?
前へ 次へ
全46ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
西尾 正 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング