居りました。劇場正面に飾られた“CREATER DANDY FOLLIES”のネオンサインが浅草の人気を独占して居たかの様であります。房枝の情夫が女形であると言うのは寔《まこと》に解せない話であります。何故ならば此のレヴュウ団は、ドラマとしてよりもスペクタクルとしての絢爛華麗な効果を狙った見世物《ショウ》を上演する団体であって、美男俳優やギャッグ専門の喜劇役者を始めそれぞれ一流の歌姫や踊児などを多数専属せしめ、絶対に女形を必要とする様なレベルトアールは組まないからで有ります。其処で私は、女形と云うのをあの夜の女の思い違いであると断定し、大勢の男優達[#「男優達」に傍点]の中から、房枝の情夫と考えて最も可能性のある美男のジャズ・シンガア三村千代三《みむらちよぞう》を選び出しました。と云うのも、彼が最も柄の小さく平素一見して女形の如き服装をして居る点を考えたからであります。御承知の通り、寿座の楽屋口は隣接の曙館《あけぼのかん》の薄暗い塀に面して居りまして、斜《はす》かいに三好野《みよしの》の暖簾《のれん》が向い合いに垂れて居ります。或る晩は泥酔者を粧い曙館の塀に蹲《うずくま》ったり、或る晩
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