あの方々は、私のことをご存じであったのでございましょう。――さては、話に聞いていたのは、この娘さんのことでもあろうか、真実《ほんとう》にわたしによく似た方もあるもの、この人なれば、仲間うちのものが、下町風に身を※[#「にんべん+峭のつくり」、第4水準2−1−52]《やつ》した自分とも思い違えて、こちらの袖に物をかくすほどのことは無理からぬこと、さぞや、おかえりになって、立派な指差がころげ落ち、驚かれたことでもあろう。こんなことをも、お考えになったでございましょう。それと同時に、あのような――私をご自分の傀儡《かいらい》にして、御隠居さまともどもに港の街をはなれさせ、お上の注意をそちらへむけた内に大きなお仕事をなさる計画も、おたてになったのでございましょう。御隠居さまや、お千代さまがお考えになりましたように、お上の方は、御隠居さまにつれられた私を、ほんもののお千代さまとお考えになったのでございましょう。それがために、わざわざあの遠い湯の町まで、後を追ってお越しになり、私たちの様子を見まもっていられたのです。しかし、これはお二人さまの予期されていましたこと、それでこそ、必要な場合には――犯罪の行われました当時、千代とわたくしは、あの湯の町にいたのに相違ございません、私たちを監視なされていたお役人さまがご証明くださるでございましょう――と、いったことがいい得る訳でございました。
お千代さまのお仕事が、難なく運んでおりますれば、ああした手違いも起こらなかったでございましょう。が、もくろんだお仕事に失敗なされましたことと、その報告のため、私たちの宿に姿をお見せになったことが、すべてに破綻《はたん》をきたしたのでございましょう。よい頃を見はからって、私とお千代さまを入れかえるために、二組をおつくりになり、その一つをわたくしに下さった、あの立派な衣裳も、結果は、ただ、私を驚かせるに役立つにすぎないのでございます――わたくしの、夜の静寂《しじま》を破った叫び声、それが、すべての終りであったのでございました。かけつけられた、お上の方――あの、お庭そうじの男衆に姿をやつしていられました警察の方も、初めのうちは、さぞ、
常※[#歌記号、1−3−28]こちらにもおくみさん。こちらにもお組さん。こりゃまあ、どうじゃ。
という唄の文句にございますように、仰天なさったことでございましょう。そ
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