、いうことを肯定せずばならない訳でございましょう。
では、(三)のような、人為的な過失によるもので御座いましょうか。……造りものの鐘の中にある木か、鎹《かすがい》の類が、頭にあたった――とでも申すのでございますれば、大道具の手落ち故、とも考えられるでございましょうが、何分にも、撥という事が、はっきりと分っている上からは、人為的な過失に原因するとも考えられないでございましょう。
そうすれば、結局(四)か、または、(五)の第三者による殺人と断定しなければならないでございましょう。それも、ああした情況のもとに行われた殺人といたしますれば、(五)の計画された殺人事件――綿密な計画と、非常に周到な用意のもとに決行された事件と考えるが当然でございましょう。
|○|[#「|○|」は縦中横]
これで、第三者の手による、計画された殺人事件――と、ほぼ、断定し得る訳でございましょう。そうすれば、次は、誰が殺したのであろうか――即ち、加害者の問題になる順序でございましょう。しかし、当時の情況や、被疑者の陳述を、静かに、考えますれば、あの殺人事件の計画者が、直接に手を下していない――と、考えるべき幾つもの個所があるでございましょう。言葉をかえて、申しますと、
(い)何かの機械の応用、
(ろ)あり得べき迷信的な力の利用、
(は)動物の使用、
と、いうような、間接の殺人方法が考えられるでございましょう。そうすれば、はたして、
(い)のように、機械の力を応用して、楽屋に残された撥を、造りものの鐘の内部に運び、時間をはかって、中の人物に投げつける――と、いうようなことをしたのでございましょうか。そうしたことが可能でございましょうか。
(ろ)のように、迷信的な力を利用して、あのようなことが出来るでございましょうか。……この何れにも、何となく、不合理に感ぜられるところがございましょう。しかし、
(は)の、動物の使用――と、いうことに考え及びますとき、私は愕然とし、思わず、五体の緊張するを憶えたのでございます。しかし、それは、犯人が動物を使用して、計画した殺人事件、と考えついたからではございませぬ。いつか師匠から承りました、岩井半四郎が、駒下駄を投げつけて殺したという、小猿のことを思い出したからでございます。その時、親猿は、悲しげに鳴きさけびながら、怒の形相物凄く、半四郎を、
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