、かくいう戀人「机龍之助」の姿を除いて、そこに他の「机龍之助」の思い描かれよう筈がない。
 かように戀人「机龍之助」を心に持つ私が、例えいかに力めるにしても、その他の「机龍之助」を批判し云爲することは、これこそ評される「机龍之助」にとつて有利な譯がない、これは避くべきであると同時に、またその時期でもあるまいと信ずる。
 要するに私は小説「大菩薩峠」を批判するには、餘りに多く自分自身の「机龍之助」に心ひかれるのである。――これを以て私の「机龍之助」感に代えることにする。
[#地付き](「中央公論」昭和三年三月)



底本:「文藝 臨時増刊 中里介山大菩薩峠讀本」河出書房
   1956(昭和31)年4月6日発行
入力:門田裕志
校正:小林繁雄
2004年6月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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