去の関係が自分の頭に浮かんでくるのが不愉快であった。正月のうちにわたしは種《しゅ》じゅの場所に入れておいた私たちの手紙の残りを探し出して、ことごとく焼き捨てた。
その年、すなわち一八八五年の四月の初めには、私はシムラにいた。――ほとんど人のいないシムラで、もう一度キッティと深い恋を語り、また、そぞろ歩きなどをした。私たちは六月の終わりに結婚することに決まっていた。したがって、当時印度における一番の果報者であると自ら公言している際、しかも私のようにキッティを愛している場合、あまり多く口がきけなかったということは、諸君にも納得《なっとく》できるであろう。
それから十四日間というものは、毎日まいにち空《くう》に過ごした。それから、私たちのような事情にある人間が誰でもいだくような感情に駆られて、私はキッティのところへ手紙を出して、婚約の指環というものは許嫁《いいなずけ》の娘としてその品格を保つべき有形的の標《しるし》であるから、その指環の寸法を取るために、すぐにハミルトンの店まで来るようにと言ってやった。実をいうと、婚約の指環などということは極めてつまらないことであるので、私はこのときまで
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