や黄いろい鏡板のついたウェッシントン夫人の人力車と、その内でうなだれている彼女の金髪とがくっきりと浮き出していた。彼女は左手にハンカチーフを持って、人力車の蒲団にもたれながら失神したようになっていた。わたしは自分の馬をサンジョリー貯水場のほとりの抜け道へ向けると、文字通りに馬を飛ばした。
「ジャック!」と、彼女が微《かす》かにひと声叫んだのを耳にしたような気がしたが、あるいは単なる錯覚かもしれなかった。わたしは馬をとめて、それをたしかめようとはしなかった。それから十分の後、わたしはキッティが馬に乗って来るのに出逢ったので、二人で長いあいだ馬を走らせて、さんざん楽しんでいるうちに、ウェッシントン夫人との会合のことなどはすっかり忘れてしまった。
一週間ののちに、ウェッシントン夫人は死んだ。
二
夫人が死んだので、彼女が存在しているという一種の重荷がわたしの一生から取り除かれた。わたしは非常な幸福感に胸をおどらせながらプレンスワードへ行って、そこで三ヵ月間をおくっているうちに、ウェッシントン夫人のことなどは全然忘れ去った。ただ時どきに彼女の古い手紙を発見して、私たちの過
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