ですよ。ぐずぐずしてはいられません。今すぐ踏み込んで不意を襲いましょう!』
 奮然と立ち上ったガニマール刑事は、意気込すさまじく門外に出て六人の部下を引き入れた。
『よし! 課長! 用意は出来ました。ジュフレノアイ街にはピストルを上げて、すわと云えば一斎射撃、窓々をねらっています。さア、やっつけましょう。』
 人の出入に、少しはざわ付いたけれど、家人の耳にはよもや入るまい。ジュズイ氏は正式の逮捕手続をしていないのを不本意に思ったけれども、事は急だ。千載一遇、この機を逸していつまたルパンを捕え得ようぞ。決然として振い起った。
『よし! やっつけろ!』

          八

 手に手にピストルを握って、ひたすらルパンを捕えることに心奪われつつ、足早に階段を上った。
 ガニマール刑事はもちろんよく勝手を知っていた。スパルミエント夫人の部屋に来ると、扉にのしかかって、叫んだ。
『開けろ!』
 一人の警官は、つと進んで、肩で一突、難なく扉は押破られた。
 が、中には誰もいない。
 隣のビクトアルの部屋へ行った。
 同じく藻抜《もぬけ》のからだ。
『上にいるんだ。ルパンの部屋に‥‥油断するな!』ガニマールは一同に注意した。
 八人一時に四階に馳《か》け上った。しかし、ルパンの部屋は開け放されて、同じく人影もなかった。
 ガニマール刑事は血眼になって馳け廻ったが、どの部屋にも、誰もいなかった。
『畜生! 畜生! どうしやがった?』
 すると、三階へ下りたジュズ[#「ズ」は底本では欠落]イ氏が、ガニマール刑事を呼んだ。三階の窓の扉が一枚締めてはあったが、ちょっと押せば開いたからである。
『そら、ここから逃げたのだ。これが壁布を持ち出した所じゃないか。僕があれほど言ったのに‥‥ジュフレノアイ街の方だ‥‥』
 ガニマール刑事は怒りの歯噛み荒々しく、
『それなら、なぜ射ち留めないだろう? 伏せてある部下が?』
『まだ張込んでない前に、風を喰って逃げ出したのだろう。』
『でも、あなたの所へ電話をかけた時には、三人共ちゃんと部屋にいたんですが。』
『君が庭の蔭で、僕等を待っていた時に飛び出したのだろう。』
『それにしてもなぜ逃げたでしょう?』
『うん、保険金を握らぬ中《うち》に‥‥』
『今夜急に行ってしまうわけは無[#「無」は底本では「無な」]い。』
『どうも不思議だ。』

 いや、実
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