ましょうといいますと、怪獣はよろこんで、そうやって、いつまでも、ここからはなれない約束をしてくれるように、といいました。
ところで、その朝、れいの姿見にうつったところでは、ラ・ベルの父親が、むすめがもう死んでいるとおもって、たいへんかなしがって、重い病気になっていることがわかりました。しかもふたりの姉は、よそへおよめに行っていて、男のきょうだいたちは、兵隊に出ていました。それで、むすめは、怪獣にそのわけを話して、このままながく、ここを出ることができないなら、父親のことが心配で、死んでしまうかもしれないといいました。
すると、怪獣はいいました。
「いいや、けっしてそれまでにして、お前をとめておこうというのではない。お前にそんなおもいをさせるほどなら、怪獣のわたしが、お前をなくしたかなしみのために、死んだほうがましだよ。」
でも、むすめは、ほんの一週間したらまたかえってくるからと、かたく約束して、父親の見まいに行くことをゆるされました。ただ、出て行くとき、鏡の前に、ゆびわをのこしておいて行ってくれればいいと、怪獣はいって、いつものとおり、お休みなさいをして、出て行きました。
そのあくる朝、目がさめると、ラ・ベルは、ちゃんと、いなかのこやに、はこばれて来ていました。父親は、むすめのぶじな顔をみると、病気は、けろりとなおってしまいました。
父親は、さっそく、姉たちをむかえに、人を出しました。姉たちは、それぞれ夫《おっと》とつれ立ってやって来ました。およめに行ったものの、この姉たちは、いっこうたのしくくらしてはいませんでした。ひとりの夫は、いばりやで、みえばかりかざって、ほんとうの愛情《あいじょう》を知らない男でした。もうひとりのほうは、わるくちやで、他人のあらばかりみつけて、よろこんでいるような男でした。それで、姉たちは、死んだとおもった末の妹がぶじでいて、しかも、たべものにもきものにも、なにひとつふそくなく、ゆたかにくらしているようすをみて、ねたましくなりました。それで、どうかして、もう二どと怪獣の御殿にかえられないように、かえれば、すぐとおこられて、くいころされてしまうようにといのって、一週間という約束を、むりやりやぶって、いつまでもひきとめておくたくらみをしました。
さて、その十日めの夜でした。ラ・ベルは、姉たちの、わざとちやほやもてなすなかで、夢をみました。それは、きのどくに、怪獣が半分死にかけて、夜、草原の上に、あえぎあえぎ倒《たお》れている夢でした。むすめは、涙にひたりながら目をさましました。それでいったん床《とこ》からおき出して、ゆびわを鏡の前の台において、また床にはいって、ぐっすりねむりました。さて、目をさましますと、いつか、また御殿へはこばれて来ているので、ほっと安心しました。それから、晩の食事の時まで、さんざん待ちどおしくくらして、はやく怪獣にあうことばかりおもっていました。ところが、八時がうち、九時が打っても、怪獣は姿をあらわしませんでした。
「ああ、わたし、ほんとうに、あのひとを、ころしたのではないかしら。」
そうさけんで、むすめは、庭へとびだしました。そして、夢でみた草原の所へ来ますと、そのとおり怪獣は気をうしなって倒れていました。むすめは、はっとして、そのからだをだきかかえました。すると、心臓《しんぞう》がまだうっているのが分かったので、ちかくの泉から、清水《しみず》をくんで来て、その顔にふっかけました。すると、怪獣はかすかに目をあいて、虫の息でいいました。
「お前が約束をわすれたので、わたしは物をたべずに死ぬかくごをした。でも、かえって来てくれたから、これで、せめてたのしく死ぬことができる。」
「いいえ、ラ・ベートは死んではなりません。」と、ラ・ベルはいいました。「あなたはいつまでも生きていて、わたしの夫になっていただきます。いま、わたしは、ほんとうにあなたを愛していることが分かりました。」
このことばが、さけばれたとたん、御殿じゅう、火事のようにあかるくかがやきだしました。五|色《しき》の火花が、大空にとびちりました。さかんな音楽のひびきが、大地《だいち》をふるわせました。
おそろしい怪獣のすがたは、どこにもみえなくなりました。
そのかわりに、こうごうしいまでに、りっぱな王子が、そこにいて、むすめの足もとに膝《ひざ》まづいていました。そして、むすめのまごころの力で、なが年とけなかった魔法の呪《のろい》がとけて、ほんとうの姿にかえられたことを、よろこんでいました。
でも、むすめには、まだそれがわからないのです。それで、心配そうな目で、怪獣のゆくえを追っていました。
「まあ、おきのどくなラ・ベート、わたしの怪獣さんは。」
「その怪獣が、わたしですよ。」と、王子がいいました。「あるいじわ
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