ろう[#「くろう」に傍点]もくったくもありませんでしたから、まっさきにおなかがすいて、倒《たお》れそうにおもいました。女官|頭《がしら》は、ほかの人たちとおんなじに、ひどくおなかがへって、がまんできないほどでしたから、だしぬけに大きな声で、お姫さま、お夕飯《ゆうはん》のおしたくができましたと、申しあげました。王子は、王女のお姫さまを助けて立ちあがらせました。お姫さまは、ずいぶんりっぱなふうをしていましたが、なにしろそれは百年まえにはやった、王子のひいおばあさんの着物とおなじようだということを、さすがにお姫さまにむかっていうことは、えんりょしていました。いくら流行《りゅうこう》おくれなふうはしていても、それがために、王女の美しさにも、かわいらしさにも、いっこう、かわりはなかったのですからね。
 さて、ふたりは、鏡《かがみ》の間《ま》に出て行きました。そこで夕飯《ゆうはん》の食卓《しょくたく》について、王女づきの女官《じょかん》たちがお給仕《きゅうじ》に立ちました。そのあいだ、バイオリンだの、木笛《きぶえ》だのが、百年まえの古い曲《きょく》をかなでました。それは、百年まえの古い曲にちがいありませんでしたが、りっぱな音楽《おんがく》であることにかわりはありませんでした。
 食事がすむと、時をうつさず、大僧正《だいそうじょう》は、ふたりをお城の礼拝堂《れいはいどう》へ案内《あんない》して、ご婚礼《こんれい》をすませました。女官|頭《がしら》は、ふたりのためにとばり[#「とばり」に傍点]をひきました。

         四

 ふたりはその晩、ほんのわずかしか眠りませんでした。王子は、あくる朝、王女にわかれて町へかえりました。おとうさまの王様が、待ちこがれておいでになるところへ、かえって行ったのでございます。
 王子は、狩《かり》[#「狩《かり》」は底本では「狩《かり》り」]をしているうち、森の中で道にまよって、一|軒《けん》の炭焼小屋にとまって、チーズや黒パンをたべさせてもらったことなどを話しました。おとうさまの王様は、人のいい人でしたから、王子のいうことをほんとうになさいました。けれど、おかあさまのお妃は、もうさっそく、王子には、およめさんができていることを、おさとりになりました。
 それから二年たちました。王女には、ふたりもこどもが生まれました。上の子は女の子で、これは「朝」という名でした。下の子は男の子でこれは「昼《ひる》」という名でした。そのわけは、弟のほうが、ねえさんよりも、ずっとりっぱで、美しかったからでございます。
 それからまた二年たって、王様がおかくれになって、王子が、新しい王様の位につくことになりました。そこではじめて、天下《てんか》はれて、王女と結婚《けっこん》のしだいを、国じゅうに知らせました。そうして、りっぱな儀式《ぎしき》をととのえて、あらためて、眠る森から、お姫さまをお迎えになりました。王女はふたりのこどもを両わきにのせ、美しい行列の馬車をそろえて、王様のお城に乗りこみました。

 美しいりっぱな、いい心をもったあいてを、待っているということは、むずかしいことです。でも、待つことによって、幸福はましこそすれ、へるということはありません。



底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
   1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本では見出し「一」はページ上部に挿し絵があるため、他の見出しと字下げ分が異なっていましたが、統一しました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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