聞きました話では、――その父はまた、もとは、じじいから聞いたのだと申しますが、――このお城の中には、それはそれは美しい王女のお姫《ひめ》さまが住んでおりまして、もう百年のあいだ、ずっと眠りつづけたあと、ちょうど百年めに、ある王様の王子が来て、目をさましてくださるのを、待っているのだということでございます。」
 若い王子は、この話を聞くと、からだじゅうに、かっとあつい血がもえあがるようにおもいました。ぜひとも、このめずらしいできごとのおさまりを、自分でつけてしまわなければとおもいたちました。美しいお姫さまをさずかるうえに、たれもはいれない魔法《まほう》のお城をきりひらく名誉《めいよ》が、自分のものになるとおもうと、もううしろからからだを押されるような気がして、さっそく、そのしごとにかかろうと決心《けっしん》しました。
 そこで、王子は、森にむかってずんずん進んでいきますと、大きな木も低《ひく》い木も、草やぶもいばらも、みんな道をよけて通しました。その広い道をどこまでも行きますと、やがてその奥《おく》にあるお城に着きました。
 ところで、すこしびっくりしたことには、ふとふりかえってみると、家来《けらい》に、ひとりもついてくるものがないのです。なぜというに、王子がはいるといっしょに、すぐ森の口がしまってしまったからです。けれども、王子はかまわずに、ずんずん進んでいきました。若いやさしい、そして火のようにあつい心をもった王子は、いつも勇気のあるものです。
 王子はやがて大きな広い庭に出ました。そこでまず見たものは、どんなこわいもの知らずでも、ぞっとして、骨までこおるようなものでした。なにもかも、気味《きみ》のわるいほど、しいんとしずまりかえっていました。そこにも、ここにも、目に見えるものは、人間や動物が、みんな死んだもののように、ぐんにゃり手足をなげ出しているすがたでした。けれども、そこに立っている、おやといスイス兵の鼻いきは、ぷんとお酒くさいし、ぽおっと赤いほほをしているのを見ても、この連中《れんじゅう》は、みんな眠っているのだということが、すぐ分かりました。しかも、その手にもった茶わんには、まだぶどう酒《しゅ》のしずくがのこっているので、なかまとお酒《さか》もりのさいちゅう、眠ってしまったのだということまで知れました。
 王子はそれから、大理石《だいりせき》をしきつめた大ろうかを通って、かいだんの上まで行って、番兵のつめているへやにはいりますと、番兵らは鉄砲《てっぽう》を肩にのせてならんだまま、ありったけの高いびきをかいてねていました。それからまた進んで、いくつかのへやを通って行きますと、どのへやにも、紳士《しんし》たちや貴婦人《きふじん》たちが、立っているものも、腰をかけているものも、みんな、たわいなく眠りこけていました。とうとう、おしまいにはいったのは、のこらずが金ずくめのきらきらしいへやでした。そこに、りっぱなねだいがすえてあって、四方のとばりのこらず、あげた中に、それこそこの世にふたつとない美しいものがあらわれました。たぶん十五六くらいの年ごろのお姫さまが、こうごうしく光りかがやくすがたで、眠っていたのです。あっと、おどろきながら、王子はふるえる足をふみしめふみしめ、その前にひざまづきました。
 さあ、これで魔法《まほう》の力もいよいよつきたのでしょう、王女は、ふと目をさましました。そして、なんともいえないやさしい目で、じいっと王子のほうをながめました。
「王子さま、あなたでございましたの。」と、お姫さまはそういって、にっこりしました。「ずいぶん待っていただきましたのね。」
 王子は、このことばを聞くと、なんといって、心のよろこびをいいあらわしていいか、分かりませんでした。王子は、じぶんのことよりも、どんなにかよけいに、お姫さまのことを、おもっているか知れないといいました。ふたりの話は、話すというよりも、泣いているといったほうがいいほど、ただもう、しどろもどろなものでした。ことばは、よどみがちでしたが、やさしい心のいずみは、かえって、いきおいよく流れ出しました。
 それに、王子のほうは、きまりはわるいし、ただおどろいているばかりなのに、王女のほうは、なにしろ百年のあいだ、妖女《ようじょ》がおもしろい夢《ゆめ》を、それからそれと見どおしに見せていてくれたのですから、いくら話しても話しても、話のたねがつきるということがないのです。ですからふたりは、かれこれ四時間もぶっとおしに話しつづけていて、そのくせ話したいことの半分も話しきらずにいました。
 そうこうするうち、お姫さまといっしょに、お城のそこでもここでも、みんなが目をさましました。たれもかれも、じぶんじぶんのしごとを思い出しました。ところで、みんなは、さしあたり、ほかに、く
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