なにしろ、あそこへは、まあ、世の中に、こんなきれいな人があるかと思うほど、美しいお姫《ひめ》さまが来なすったのだよ。その方が、わたしたちに、いろいろとやさしいことをおっしゃって、ごらん、こんなにレモンだの、オレンジだのをくださったのだよ。」と、きょうだいのひとりがいいました。
 サンドリヨンは、そんなことには、いっこうむとんじゃくなようすでした。もっとも、きょうだいたちに、そのお姫さまの名をたずねましたが、ふたりは、それは知らないといいました。そうして、王子様がそのことで、たいそうむちゅうにおなりになって、その名を、とても知りたがって、みんなにたずねておいでだったという話をしました。そう聞くと、サンドリヨンはにっこりして、
「まあ、その方、どんなにお美しいでしょうね。ねえさまたち、いらしって、ほんとうによかったのね。わたし、その方見られないかしら。まあねえ、ジャボットねえさま、あなたのまい日着ていらっしゃる、黄いろい着物を、わたしにかしてくださらないこと。」といいました。
「まあ、あきれた。」と、ジャボットはさけびました。「わたしの着物を、おまえさんのようなきたならしい、灰のかたまりなんかに、かしてやられるもんか。ひとをばかにしているよ。」
 サンドリヨンは、いずれそんな返事だろうとおもっていました。それで、そのとおりにことわられたのを、かえってありがたくおもっていました。なぜといって、きょうだいが、じょうだんをいったのを真《ま》にうけて、着物をかしてくれたら、どんなになさけなくおもったでしょう。

         五

 さて、そのあくる日も、ふたりのきょうだいは、ぶとう会へ出かけて行きました。サンドリヨンもやはり、こんどは、もっとりっぱに着かざって、出かけて行きました。王子は、しじゅうサンドリヨンのそばにつきっきりで、ありったけのおせじや、やさしいことばをかけていました。それがサンドリヨンには、うるさいどころではありませんでしたから、ついうかうか、妖女《ようじょ》にいましめられていたことも忘れていました。それですから、まだまだ時計が十一時だと思ったのに、十二も打ったのでびっくりして、ついと立ちあがって、めじかのようにはしっこくかけ出しました。王子もすぐあとを追いかけましたが、とうとう追いつきませんでした。けれど、サンドリヨンも、あわてたまぎれに、金の上《うわ》
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ペロー シャルル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング