だと云う事は解った。して見ると代議士の室《しつ》とは扉《と》一重《ひとえ》をへだてるだけだ。
ルパンは大急ぎで階段を降りて、その扉口《とぐち》へ近づいた。扉《と》は閉じられてある。左手《ゆんで》を見ると例の下のはめ[#「はめ」に傍点]板をはずした穴があいているらしい。
耳をすますと、ドーブレクはこの時寝返りを打ったらしく、大きい寝息が聞こえて来た。と思うとごくかすかに衣服《きもの》を動している様な響きが耳についた。怪物は室内にあってドーブレクが脱ぎすてた衣服を捜しているらしい。
『今度は少し事件が明るくなって来たぞ』とルパンは考えた。『だが畜生め、怪物はどうして忍び込んだんだろう? あの鍵と閂をどうして外したろう?』
しかしルパンは一瞬の間に自分のとるべき行動を決定した。彼は直ちに階段を降りてその一番下に陣取った。そこはドーブレクの室《しつ》と玄関の中間に位《くらい》するので、敵の退路はかくして完全にたたれた訳だ。
暗黒裡の不安がひしひしと身に迫る! ドーブレクの敵にしてまた彼の強敵たる怪物は、今まさにその覆面を取らんとしているのだ。彼の計画は完全した。敵がドーブレクから盗奪《
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