けてぎゅっと絞め上げた。
ドーブレクは力の限り抵抗した。ドーブレクは絞め上げられた手を振りほどこうと努めたが、時既に遅く、次第に息が塞がり気力が抜けて来た。
『ああ!ゴリラめ!』とルパンは彼を引き倒しながら云った。『なぜ助けてくれと喚《わめ》かないんだ? 世間体を恐れるのか畜生ッ』
と云い様《ざま》、その頭に一撃を喰わすと、代議士は悲鳴を挙げて気絶してしまった。残る仕事は例の婦人を連れて、人々が騒ぎ出さぬ内にここを逃げ出すだけだと思って振り返って見れば既に婦人の姿は見えぬ。
逃げ出したにしてもまだ遠くへは行くまい。彼は続いて桝を飛び出した。そして案内女や桟敷番《さじきばん》が驚いているのに目も呉れず一散に階段を駈け降りると、婦人が今しもアンチンヌ並木町に面した出口の処へ走って行く姿を認めた。彼が追いすがった時に彼女は自動車の中に躍り込んでピシャリと扉《ドア》をしめた。彼は手を延ばして把手《ハンドル》を掴み扉《ドア》を開けようとした。その瞬間ヌッと男の姿が中から出るや否や、巧みな、かつ猛烈な拳骨をもってルパンの面部《めんぶ》を殴り付けた。
不意の猛襲にグラグラと目が眩んで倒れなが
前へ
次へ
全137ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新青年編輯局 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング